『よい子』二


僕は頭を打った気がした。
いやぶたれた気がした。
ぶたれる、ということとぶーたれる、ということは受動と能動の違いがあり、さらに意味が異なる。
ぶたれたであろうということに関して僕はぶーたれたかった。
なぜなら痛かったからだ。
後頭部にこぶが2つ、そして頭頂部にもこぶが1つ。
僕はこっぴどくやられたのだ。
下手人は誰か。
それはわからなかった。
僕は囚われていたのだ。
殺風景な屋根裏部屋と思われる場所に。
陽射しはかんかんでりだった。
地球温暖化、異常気象、世界的気候変動。
天気がグローバルマインドを発揮しているかのようだった。
しかし、グローバルマインドというと、熱気を感じるのはなぜだろう。
僕は手錠のついた手で半ばまで腕組みをした。
統合、勃興、グローバル、世界、、、
どれも熱を感じることばだらけだ。
しかしこの部屋はそこそこ暑くなく、むしろひんやりしていた。
冷房が効いていたのだろう。
巨大な薄型テレビがあり、地デジ画質で映画が流れていた。
映画は昔のウェスタン風のものであり、僕は縛られながらそれを見ていた。
悪役が出てきている。インディアンなのだろう。
インディアンが保安官を殴っていた。ひどい殴り方だった。にやにやしながら、拳を固く握って。
それをふりおろす。またふりおろす。
繰り返しのようだった。というか、よくよく見たら、それは繰り返しだった。
編集で殴るシーンを繰り返していたのだ。
「ひどい映画じゃないか! コピーしてテープで貼り付けるようなことをして!」
僕はかんかんになって叫んだ。
すると、天井のほうから声がした。
「あなたも同じことをしたでしょう。何の創意工夫もなくただ殴るという行為のための行為を。それは誰に向けられてましたか?」
声は、反省を促す修道女のようなものだった。
僕は女に対して弱くするようにしているので、真摯に考えた。
僕は殴った覚えはない。
そうじゃなくて僕は殴られたのだ。
これは傷害事件ではないか?
相手が誰だか知らないが、これは人違いまたは筋違いな私的制裁である。
そのことを分かってもらいたい。
だが、どうやって?
相手は監禁部屋を用意しているし、僕を反省に導く女を雇うほどに資金もあるらしい。
ただで帰してくれるとも思わない。
だが、相手がもしも社会人なら、やむにやまれぬ用事があった場合の緊急性、切迫性を訴えたら帰宅が可能になる気がした。
「僕は学校に行かなくちゃいけない、または仕事に行かなくちゃいけない、または就職活動をしなくちゃいけない、そのいずれかもしくはそのいずれもかだ。君に監禁されている暇なんてないんだ。それに君は憲法を冒している。僕の自由権を著しく侵害しているよ。刑法を介することなしに!」