母とちさきものたち (掌編)

その母は、冬のある日、上野の某通りの路上に横たわっていたのである。雪とも雨とも別のつかぬ、ただひたすらに冷たいものが各人に降りそそいでいたとき、それはたしかにその母にも積もっていた。母はたらちねを出し、横になるとも仰向けになるとも言えない体勢で、数匹のちさきものたちに乳を与えていた。しかしどうもその母から、乳はもう出ていないらしいのだ。ちさきものたちは、必死に母の乳を吸う。僕は目を転じて母をまじまじと見た。そこには、毛が半分以上抜け落ち、目は八割方濁りをたたえ、吐く息は白いというよりも透明に近いというもうすぐ母でなくなるものがいた。死神の鎌が母の首をまさに刈り取ろうとしていたのである。そのさなか、そのちさきものたちは震えるのも忘れ必死に母の胸に吸い付いていたのである。僕は、数時間後、いやほんの十分か二十分後には訪れるであろうことを見届けることができなかった。そして僕は急いでその場を離れ、動揺を打ち消すようにふうっと大きくため息をし、母に何があったのか考えた。おそらくそれは月並みな悲劇であったろう。最後まで彼女が子を産み、育てようとしたということを、僕はそれを本能と呼んでいいのかどうか、いまでも判然としない。本能というものが神性を帯びているとはーー!