短歌

救済について 5句

われ救済を叫んだ舌の乾かぬに神ののしりて罵言に溺る この身をば委ねて助かるその神の裸体見ざれば信ぜざるなり 助かればどうしてどうかわからずに夢にも我が身助からざらむ 手をのばし掴んだ先のその先に先住民はつねにおりけり この欲のあふれるいずみわ…

散歩する女児

キャラもののサンダル鳴らしゆくおとめ肉の去来を予感せる音 手と足を振りに振りつつ時折に虚空に見せるうつろげな顔 はにかんでこぼれた歯と歯胸内に都会の毒はいつぞ入らん 父親の手引きあゆめるその足の音の先なるおとめ青空

読書について

吾はさて出歯亀なりや一頁また一頁繰りて悔いたり 体裁の流通と機械とくぐり抜けわがこの本のおすましな顔 読むたびに読んだ経験のしかかり他者の眼球吾を睨めり 読むほどに悔恨ふかし南米の飢えたる孤児のうめきを聞けり

病む

ひととおり苦悶を吐いてため息のつけるあいだはまだ生きてをり しづらかに血潮のめぐるわが身こそ誰ぞほかたれのものであらざる 肉体の所有の期日決めかねて委ねたくなる心と対峙

3.11の地震

ぐらついて黒き波濤にすえられてぱんどらのはこ逆しまに開く

晩夏の蝉

もういぬと思うあしたに蝉は鳴き死ぬも生きるも蝉は多かり

あおむけて最後に見せたばたつきの足のもがきは電池切れかけ おおあめでさいごの蝉も流されておそらく溝に落ちたのだろう

5つ

涙こそ出ずにすごせる火曜日の置き霜見やり朝の日も見ず 成熟に達したつもり実はただ老いが来たなり日も暮れたなり 若さこそ三十路になれば言い訳にもちうべからずただ責めるなり わが身こそ歌うべからず世のことも掬うあたはずただしょぼくれぬ 木々の音ガ…

12月

軽トラが通って揺れる師走日のまちのすき間をとおるふゆ風

エアコンの寒さごまかす機能からよどみぬきたる外気のふける トラックの元気うせたり猫さえもおとなしげなりエコのふる町 ねふるした布団つかんで寝たるれどやむにやまれぬくいとあわれと

落花

花みっつ 春の音を立て 落ちぬ 三枚の 花それぞれに いびつなり 三つだけ 落ちて花ただ もうみられぬ 同時的 ひらり落ちたり 三つ花の 角度自然に 算出されり 音なくて 耳を疑う だがしかし 鳴ったというは 花の音なり 花の音の ひらりはらりも なくななり …